低酸素で「繰り返し踏める力」は伸びる? 4週間のスプリント研究を解説
ロードレースでアタックに反応する。短い坂で加速する。少し回復したら、もう一度強く踏む。
こうした場面では、一度だけ大きなパワーを出す能力に加えて、高強度の運動を繰り返す能力が求められます。
この「繰り返し踏める力」に着目したのが、低酸素環境で行う反復スプリントトレーニングです。
2013年にFaissらが発表した研究では、4週間のトレーニング後、低酸素群で疲労困憊まで続けられるスプリント回数が増加しました。一方で、すべての能力が通常酸素より大きく改善したわけではありません。

今回は、この研究で何がわかり、何までは言えないのかを解説します。
低酸素×HIITの一種「反復スプリント」とは
HIIT(High-Intensity Interval Training)とは 、高強度の運動と休息、または低強度の運動を交互に行うトレーニングです。ただし、運動時間や強度によって内容は異なります。
今回の研究で扱われたのは、数秒間の全力運動を短い回復時間で繰り返す「反復スプリント」
これを低酸素環境で行う方法は、RSH(Repeated-Sprint Training in Hypoxia)と呼ばれます。
数分間の高強度インターバルと、10秒程度の全力スプリントでは、運動中の負担や評価する能力が異なります。「低酸素HIIT」という言葉だけで、すべてを同じトレーニングとして扱わないことが大切です。
研究では何をしたのか
Faissらの研究では、トレーニング経験者40人が、低酸素群20人と通常酸素群20人に分かれ、4週間で計8回の自転車反復スプリントを実施しました。別に、特別なトレーニングを行わない対照群10人も設けられています。
低酸素群の環境は、標高約3,000m相当でした。
トレーニングは、10秒間の全力スプリントと20秒間の回復を繰り返す構成です。研究者はトレーニングの前後に、通常酸素環境で反復スプリント能力を評価しました。
ここで重要なのは、効果の評価が低酸素環境の中だけで行われたのではないことです。低酸素でトレーニングした後、通常酸素での運動能力がどう変わったかを調べています。
低酸素群では、続けられるスプリント回数が増加
反復スプリントテストでは、疲労困憊まで続けられた回数が、低酸素群で平均9.4回から13.0回へ増加しました。これは統計的に有意な増加です。
一方、通常酸素群は平均9.3回から8.9回で数値的には下がっていますが、これは誤差の範囲内であるため、能力低下を示したものではありません。有意な増加は認められなかったといえます。
低酸素群の平均値の変化は約38%ですが、この数字は「運動能力全般が38%向上した」という意味ではありません。テスト内容であるスプリント回数の変化になります。
平均パワーの改善には、低酸素の上乗せ効果が見られなかった
もう一つ注目したいのが、スプリント中の平均パワーです。
テスト中のスプリント平均パワーは、低酸素群で約6%、通常酸素群で約7%改善しました。両群とも改善しましたが、その改善幅は誤差の範囲内で有意差はありませんでした。
結果の中心は、パワーの改善幅ではなく、疲労困憊まで反復できる回数にあります。一度の強さと、強い運動を繰り返す能力を分けて考えると、この研究の意味が見えてきます。
なぜ反復能力が変わったのか
研究では運動能力だけでなく、筋肉の遺伝子発現や、運動中の筋血流に関係する指標も調べられています。
低酸素群では、低酸素への応答に関わるHIF-1αや、乳酸・水素イオンの輸送に関わるMCT-4などのmRNA量に変化が認められました。研究者は、筋血流の調節やエネルギー代謝に関わる適応が、反復能力の改善に関与した可能性を論じています。
ただし、遺伝子発現の変化だけで、能力が改善した仕組みをすべて説明できるわけではありません。
「乳酸を完全に除去できるようになる」「ミトコンドリアが増える」といった単純な説明に置き換えず、複数の適応が関わった可能性として理解するのが適切だと思います。
ロードレースにはどう繋がるのか
ロードレースでは、一定ペースで走り続けるだけでなく、アタックへの反応や短い登りでの加速など、高強度の運動を繰り返す場面があります。
そのため、反復スプリント能力は、ロードレースの要求を考える上で重要な評価項目です。
レース中には幾度ものアタックが掛かり、集団を削っていきます。相手より1発でも多く打てる脚があれば結果は大きく変わってくるのではないでしょうか。
あのアタックにさえ反応できれば・・・・あそこで決め切れる一発が打てたら・・・
それが出来る可能性が低酸素トレーニングはあります。
研究結果を実践に使うときの注意点
この研究は、特定の対象者、条件、内容、期間で行われたものです。結果をすべての選手にそのまま当てはめることはできません。
また、標高約3,000m相当という設定は研究条件であり、読者全員に推奨する設定ではありません。酸素をさらに薄くすれば、効果がさらに大きくなるわけでもありません。
実践する際は、体調やトレーニング経験に応じた負荷管理が必要です。
低酸素トレーニングは、最初は軽めにして身体を慣らし、徐々に対応させていくと効果的です。
焦って少ない酸素量でトレーニングしても高い効果が得られません。
負荷に身体が対応できない状態で高負荷を与えれば、ダメージが大きくなり過ぎてトレーニング効果が得られなくなる可能性があります。
まとめ:注目すべきは「一発の強さ」より「繰り返す能力」
Faissらの研究では、4週間・計8回の低酸素反復スプリント後に、通常酸素でのテストで続けられたスプリント回数が増加しました。
一方、スプリント平均パワーの改善幅は、通常酸素群と有意な差がありませんでした。
この研究から読み取れるのは、低酸素があらゆる能力を底上げするという話ではなく、反復スプリント能力という特定の指標に対して、追加の改善が期待できる可能性です。
低酸素トレーニングを検討するときは、まず「何を伸ばしたいのか」を明確にすることです。
これは通常トレーニングも同じです。闇雲に走れば速く、強くなるわけではありません。
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参考文献
Faiss R, Léger B, Vesin JM, et al.(2013). Significant Molecular and Systemic Adaptations after Repeated Sprint Training in Hypoxia. PLOS ONE, 8(2), e56522. DOI: 10.1371/journal.pone.0056522.
本記事は研究の紹介を目的としています。特定の機器による同等の効果や、個人の競技成績の向上を保証するものではありません。