低酸素トレーニングを支える低酸素ジェネレーターの仕組みと選び方
低酸素トレーニングを支える低酸素ジェネレーターの仕組みと選び方
高地トレーニングと同様の負荷を室内で再現できる低酸素トレーニングは、持久系競技や登山、マラソン、競輪、サッカーなどのパフォーマンス向上に有効な手法として注目されています。その中心となる装置が、室内の空気を人工的に低酸素状態へと変化させる低酸素ジェネレーターです。
一方で、「低酸素ジェネレーターはどうやって低酸素を作り出しているのか」「PSA方式と膜式の違いは何か」「トレーニングに使うにはどの程度の出力が必要なのか」といった技術的なポイントは、多くの方がご存知ではないと思います。
本記事では、低酸素トレーニングで使用される低酸素ジェネレーターの仕組みと選び方を整理して解説します。
低酸素ジェネレーターはどうやって低酸素を作り出しているか
私たちが普段吸っている空気は、およそ酸素21%・窒素78%・その他1%という組成になっています。低酸素ジェネレーターは、この空気の中から酸素の割合を下げる(実質的には窒素の割合を高める)ことで、標高2,000〜7,000m級の高地に相当する低酸素環境を作り出します。
この「空気中の酸素と窒素を分離する」技術には、大きく分けて次の2つの方式があります。
- PSA方式(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着方式)
- 膜式(中空糸膜を利用した分離方式)
どちらの方式も、コンプレッサーで空気を圧縮し、分離に用いる吸着剤や膜に通すことで酸素と窒素を分けています。ただし、分離の原理・環境への依存性・吐出量の確保しやすさ、製造コストが大きく異なります。
PSA方式と膜式の違い
PSA方式の仕組みと特徴
PSA方式は、人工ゼオライトと呼ばれる多孔質の吸着剤(分子ふるい)を利用する方式です。圧縮した空気をゼオライトが充填された筒(吸着塔)に通すと、酸素分子は吸着剤に吸着され、窒素分子はほとんど吸着されずに通り抜けるという性質の違いを利用して、窒素濃度の高い(=酸素濃度の低い)空気を取り出します。
PSA方式の装置は通常2本の吸着塔を持ち、片方が吸着している間にもう片方は吸着した酸素を排出(脱着)する工程を交互に繰り返すことで、連続的に低酸素の空気を作り続けます。この「圧力を変動させながら吸着と脱着を繰り返す」動作が、PSA(Pressure Swing Adsorption)という名前の由来です。
低酸素トレーニングの観点では、PSA方式は狙った酸素濃度への調整精度が高く、高流量にも対応しやすく安価なため、マスクを使ったトレーニングや小型テントを低酸素化する用途に適しています。また、ゼオライトは水分を吸着しても、エアーコンプレッサーから吐出される比較的高い温度の空気で乾燥するため、湿度の影響を膜式ほど受けず、湿度による性能変動が小さいという利点があります。
膜式の仕組みと特徴
膜式は、中空糸膜(ちゅうくうしまく)と呼ばれる非常に細いストロー状の繊維を束ねたフィルターを利用する方式です。
圧縮空気をこの膜の内部に通すと、分子サイズが小さく膜を透過しやすい酸素は膜の外側へ抜け出し、透過しにくい窒素は膜の内側に残るという透過スピードの差を利用して、窒素濃度の高い空気を取り出します。
膜式は可動部が少なく構造がシンプルなため、装置をコンパクト・軽量にしやすく、吸着塔への切り替え音や動作音も比較的静かという特徴があります。その一方で、中空糸膜は空気中の水分に非常に弱く、湿度に大きく依存するという弱点があります。湿度が高い環境では、膜表面や内部に水分が付着・滞留し、酸素の透過が阻害されることで分離効率が低下します。
そのため、膜式では除湿フィルターやドライヤーなどの水分除去装置が必須です。
業務用の低酸素ルームでよく使われています。
個人向けの低酸素ジェネレーターでは、コスト面などからほとんど採用されていません。
低酸素トレーニング用途での比較
| 比較項目 | PSA方式 | 膜式 |
|---|---|---|
| 分離の仕組み | ゼオライトによる吸着・脱着 | 中空糸膜による透過速度差 |
| 濃度調整の精度 | 非常に高い(窒素ガス生成も可能) | 高い(トレーニングに十分) |
| 湿度の影響 | 膜式ほど受けない | 大きく受ける(除湿フィルター必須) |
| 高流量の確保 | 十分 | 十分 |
| 用途の傾向 | 個人向け低酸素トレーニング | 業務用 |
個人向けはほぼPSA方式であり、膜式は業務用がほとんどです。
弊社が取り扱っている製品はすべてPSA方式
弊社でレンタル・提供している低酸素ジェネレーターは、すべてPSA方式です。
PSA方式であれば、季節、気象に大きく左右されず、年間を通じて安定した低酸素環境を再現しやすくなります。特に日本の夏のように湿度が高い環境でも、PSA方式は性能の低下が少ないため、トレーニング環境への依存が少なくなるというメリットがあります。
ジェネレーターは全て同じではない:低出力モデルに潜むリスク
次に重要なのは、同じ「低酸素ジェネレーター」と呼ばれる機器でも、全てが同じ性能ではないということ。吐出量が少ない製品があります。
市場には、コンプレッサーの出力を抑えた低出力の製品が販売されています。
吐出量が不足していると、次のような問題が起こります。
- マスクやテント内の酸素濃度が十分に下がりきらない
- 一時的に濃度が下がっても、すぐに元の濃度に戻ってしまう
- 運動時の呼吸量に対して低酸素ガスの供給が追いつかない
その結果、「低酸素トレーニングをしているつもりでも、実際には十分な低酸素環境が再現できていない」という状態になり、期待していたトレーニング効果が得られない可能性があります。特に、ランニングやバイクトレーニングなど呼吸量が大きい運動では、吐出量不足が顕著に影響します。
弊社ジェネレーターはすべて製造メーカー最大出力モデル
こうしたリスクを避けるため、弊社が取り扱っている低酸素ジェネレーターは、すべて製造メーカー最大出力のモデルで消費電力が800VAです。
低酸素ジェネレーターの消費電力のほとんどはコンプレッサーが占めているため、消費電力を見れば出力のクラスがほぼ分かります。
製造メーカーでは他に低出力モデルとして、500VAクラスの製品があります。これは軽負荷の用途や短時間の使用であれば問題ない場合もありますが、低酸素トレーニングのように運動時に継続的に低酸素ガスを大量に供給する用途には向きません。
500VAクラスは800VAクラスと比較すると、吐出量が半分程度ですので全く足りなくなってしまいます。
ランニングやバイクトレーニングなど呼吸量が大きい場合では、500VAクラスでは供給量が不足し、狙った酸素濃度を維持できないリスクが高まります。そのため弊社では、低酸素トレーニング用途において十分な吐出量を確保するため、800VAクラスの最大出力モデルのみを採用しています。
800VAクラスのジェネレーターであれば、運動時でも安定して低酸素環境を維持し、高地トレーニングに近い負荷を再現することが可能です。トレーニングの強度を意図通りにコントロールしやすくなるため、競技レベルのパフォーマンス向上を目指す方にとって重要な要素となります。
出力の見分け方:消費電力が重要な指標
では、カタログや仕様書からどのように出力クラスを見分ければよいのでしょうか。最も分かりやすい指標が消費電力(VA・W)です。
前述の通り、低酸素ジェネレーターの消費電力の大部分はコンプレッサーによるものです。そのため、消費電力が高いモデルほどコンプレッサーの出力が高く、結果として吐出量も多くなる傾向があります。
同じ製造メーカーの製品であれば、
- 800VAクラス:高出力モデル(高吐出量)
- 500VAクラス:下位モデル(吐出量は800VAの半分近く)
というように、消費電力の違いがそのまま吐出量の違いに反映されていることが多くあります。低酸素トレーニング用途で機器を選ぶ際は、必ず消費電力の数値を確認し、出力クラスを把握してください。
まとめ|低酸素トレーニングで失敗しないジェネレーター選び
低酸素トレーニング用のジェネレーターを選ぶ際は、次のポイントを押さえることが重要です。
- 分離方式:PSA方式か膜式があるが、個人用ではPSA方式が一般的であり、安価で環境依存度も低い。特に意識する必要はない点です。
- コンプレッサー出力:消費電力(VA・W)を確認し、800VAクラスなど十分な出力を持つモデルを選びましょう。
- 吐出量:1分間あたりの低酸素ガス量が、運動時の呼吸量に対して十分かどうかを確認する。消費電力と吐出量は比例することが多いので、記載がない場合は消費電力を確認してください。
価格で判断して低出力モデルを選んでしまうと、低酸素トレーニングの負荷が不足し、期待していた効果が得られないことがあります。
弊社では、こうしたリスクを避けるため、PSA方式・800VAクラスの製造メーカー最大出力モデルのみを採用しています。