レース前の睡眠戦略
レース前夜に眠れなくても大丈夫!科学が教える本当に重要な「睡眠戦略」
大事なレースやイベントを明日に控え、最高のコンディションで臨みたい。しかし、そんな時に限って、興奮や不安で目が冴えてしまい、眠れない…。多くのアスリートが、このもどかしい経験をしたことがあるのではないでしょうか。
「眠れなかったら、明日のパフォーマンスはボロボロだ…」そんな風に焦れば焦るほど、眠りは遠ざかっていくものです。
しかし、ご安心ください。近年のスポーツ科学の研究は、そんな私たちに心強い事実を教えてくれています。実は、レース前夜のたった一晩の睡眠不足は、持久力パフォーマンスにほとんど影響しないのです。本当に重要なのは、別のところにありました。
この記事では、科学的根拠に基づき、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するための「正しい睡眠戦略」を解説します。
真実1:レース前夜の不眠はパフォーマンスを低下させない
レース前に良く眠れる選手はそんなに多くないのではないでしょうか?不眠は一般的であり、パフォーマンスへの影響は限定的ですので、そこまで神経質になることはありません。体はレース当日、アドレナリンなどを分泌して睡眠不足の影響を補ってくれます。
この事実は、科学的な実験によって裏付けられています。2011年に行われた研究では、よく訓練されたサイクリストに一晩徹夜してもらった後、タイムトライアルを行わせました。その結果、驚くことに、徹夜してもタイムトライアルのパフォーマンス自体には、統計的に意味のある低下は見られませんでした。
ただし、覚えておきたい点があります。パフォーマンスは維持されたものの、選手たちが運動中に「どれだけきついと感じるか(主観的努力度)」は、明らかに高くなっていたのです。つまり、体は動くけれど、精神的には普段より辛く感じる可能性がある、ということです。
真実2:パフォーマンスの鍵は「睡眠の貯金」にある
では、何が本当に重要なのでしょうか?それは、レースに至るまでの数日間から1週間の睡眠です。レース2〜3日前の睡眠の重要性を強調しています。
これを証明するのが、科学的な「睡眠延長」実験です。これはまさに「睡眠の貯金」と呼べるもので、レース前の数日間から計画的に十分な睡眠をとり、体に回復と適応の時間を与えることで、パフォーマンスの基盤を底上げすることができます。
2019年に行われたサイクリストを対象とした研究では、まさにこの効果が検証されました。
具体的な方法: 3日間、普段の睡眠時間より平均で約1.6時間長く寝る「睡眠延長」を実践してもらいました。具体的な睡眠時間は9時間程度です。
驚きの結果: たったこれだけで、40kmタイムトライアルのパフォーマンスが平均で3%も向上したのです。
持久系競技ではありませんが、睡眠研究で非常に有名なスタンフォード大学のバスケットボール選手を対象にした実験でも、「毎晩最低10時間ベッドで過ごす」という睡眠延長を数週間続けた結果、スプリントタイムの短縮やシュート成功率の向上という明確なパフォーマンスアップが見られました。
この「睡眠の貯金」があれば、たとえ前夜に少ししか眠れなくても、築き上げてきたコンディションが揺らぐことはないのです。
どちらの研究も睡眠時間として、9~10時間程度がパフォーマンス向上に必要なようです。
なぜ私たちはレース前に眠れなくなるのか?
そもそも、なぜ大切な日の前に限って眠れなくなるのでしょうか。TrainingPeaksの記事その原因をいくつか挙げています。
- 精神的な興奮や不安: レースへの期待感や「眠らなきゃ」というプレッシャーが、体を覚醒させてしまいます。
- ストレスホルモンの影響: 不安によってストレスホルモンであるコルチゾールが夜間に分泌されると、睡眠が妨げられます。
- 不慣れな環境: 遠征先のホテルなど、いつもと違うベッドや枕、音、温度なども睡眠の質を低下させる一因です。
これらの原因を知っておくだけでも、「眠れないのは自分だけじゃない、自然なことなんだ」と少し心が軽くなるはずです。
最高の自分でスタートラインに立つための実践ガイド
結論は明確です。前夜の睡眠に一喜一憂するのをやめ、レース1週間前から計画的に「睡眠の貯金」を始めましょう。
そのために今日からできる、具体的なアクションプランをご紹介します。
- 1. 具体的な目標を持って寝る: レース1週間前からは、研究を参考に「普段より1.5時間長く寝る。9時間以上の睡眠を取る。」ことを目標にしてみましょう。絶対的な時間を確保するのが難しい日でも、30分でも早くベッドに入るよう心がけることです。
- 2. 就寝前のルーティンを確立する: 読書、軽いストレッチ、瞑想など、心身をリラックスさせるための習慣を就寝前に行いましょう。これは、体に「これから寝る時間だ」という合図を送るのに役立ちます。
- 3. デジタルデトックスを実践する: 就寝1〜2時間前には、スマートフォンやPCの画面を見るのをやめましょう。ブルーライトは、睡眠を促すホルモン(メラトニン)の分泌を妨げてしまいます。
- 4. カフェインとアルコールに注意: 特に午後以降のカフェイン摂取は避けましょう。また、アルコールは寝つきを良く感じるかもしれませんが、睡眠の質を著しく低下させるため、レース前は控えるのが賢明です。
- 5. 「眠れない」と考えすぎない: もしベッドに入っても眠れなかったら、無理に寝ようとせず、一度ベッドから出てリラックスできることを試してみてください。そして、自然な眠気が訪れたら再びベッドに戻りましょう。
- 6. 低酸素使用: 2021年3月に日中に軽度な低酸素トレーニングを行った場合、夜間の睡眠効率が向上し、睡眠中の途中覚醒の回数、時間が有意に減少したと、㈱アシックスと㈱ブレインスリープが臨床試験の結果を発表しています。。
レース当日は、これまでのトレーニングと、計画的に積み重ねてきた「睡眠の貯金」を信じて、自信を持ってスタートラインに立ちましょう。前夜に少し眠れなかったとしても、あなたの体は最高のパフォーマンスを発揮する準備ができています。また、低酸素を利用して、睡眠の貯金を増やしておきましょう!
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