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【乗鞍ヒルクライム】 標高と出力低下率を徹底解説

乗鞍ヒルクライム攻略の鍵は「高地」にあり!標高と出力低下率を徹底解説

サイクリストの聖地、「マウンテンサイクリングin乗鞍」。
日本最高所の公道を駆け上がるこのコースは、多くのヒルクライマーにとって憧れの舞台です。しかし、その攻略は単に坂を上る力だけでは不十分。最大の敵は、目に見えない「高度」です。

この記事では、乗鞍のコースを科学的な視点から分析し、各地点の標高がパフォーマンスにどれほどの影響を与えるのかを具体的に解説します。自分の力を最大限に引き出すためのペース配分戦略を立てる上で、きっと役立つはずです。

なぜ高度が上がるとパワーが出なくなるのか?

「標高が上がると空気が薄くなる」とはよく言われますが、具体的にはどういうことでしょうか?

空気中の酸素濃度(約21%)は、平地でも山の上でも変わりません。しかし、高度が上がると気圧が下がるため、一度の呼吸で体内に取り込める酸素の「量」(酸素分圧)が減ってしまいます。これにより、筋肉への酸素量が低下し、ヒルクライムのような有酸素運動で持続的に出せるパワーが直接的に落ちてしまうのです。

衝撃の事実!各地点の推定出力低下率

※以下の数値は、高地順応をしていない人を想定した生理学モデルに基づく理論値です。パフォーマンスは個人の体質や体調、当日の天候によって大きく変動するため、あくまで目安としてご覧ください。

地点 標高 海抜0mとの比較出力(理論値) 出力低下率(理論値)
海抜0m(基準) 0 m 100 % 0 %
スタート(観光センター) 1,460 m 約 87 % 約 13 %
CP1(三本滝ゲート) 1,800 m 約 84 % 約 16 %
CP2(位ヶ原山荘) 2,350 m 約 80 % 約 20 %
ゴール(県境) 2,720 m 約 76 % 約 24 %

この表が示す通り、乗鞍はスタートラインに立った時点で、すでに平地で出せるパワーの9割弱しか発揮できない厳しい環境です。

区間別・ペース配分のヒント

この「出力低下」を頭に入れて、コースを区間ごとに見ていきましょう。

スタート地点 (標高 1,460m / 出力低下 約13%)

驚くべきことに、レースは始まった瞬間からハンデ戦です。「いつも通りの感覚」で踏むと、心拍はあっという間にレッドゾーンへ。多くのサイクリストが序盤でオーバーペースに陥る最大の原因がここにあります。特に初めて乗鞍ヒルクライムに挑戦する方は注意が必要です。

アドバイス: パワーメーターがあれば、平地での目標値より10%程度低い値に設定しましょう。意識的に「抑えている」と感じるくらいのペースで入ることが、後半の失速を防ぐ鍵です。また、パワーより感覚を大事にすることも考えておいてください。

CP1 (標高 1,800m / 出力低下 約16%)

本格的な登坂区間が始まり、体はさらに酸素を欲します。勾配がきつくなるため、パワーを維持しようとすると心拍数が急上昇しがちです。出力はスタート地点より更に3%低くなります。

アドバイス: ここは我慢の区間。タイムを狙うなら「周りにつられてペースを上げない」と心に決めて、淡々と自分のリズムを刻むことに集中しましょう。

CP2 (標高 2,350m / 出力低下 約20%)

森林限界を超え、視界が一気に開ける絶景区間。しかし、パフォーマンスは平地の8割程度まで低下しています。ここまでで脚を使い切っていると、この先でペースを維持するのは非常に困難です。思った以上にパワーが出ない。出せても継続できないといった状況に陥ります。

アドバイス: この地点で「まだ少し余力がある」と感じられるかが、目標タイム達成の分かれ道。風を遮るものもなくなるため、集団走行をうまく利用することも考えましょう。

ゴール地点 (標高 2,720m / 出力低下 約24%)

ゴール手前では、パフォーマンスは平地の4分の3程度まで落ち込みます。呼吸は苦しく、少し踏み込むだけで心臓が悲鳴を上げます。低酸素トレーニングを行い、高地順化を行っていない場合、想像以上のパワーダウンに見舞われます。焦って高出力を出そうとすれば、更にタイムは悪くなってしまう傾向にあります。

アドバイス: ゴールが見えても決して焦らないこと。空気が薄い中での急なスパートは逆効果です。最後まで一定のペースを維持することが、結果的にベストタイムに繋がります。

高地への「準備」というアプローチ

ここまで見てきたように、乗鞍ヒルクライムは単なる坂道ではなく、「高地環境」との戦いです。成功の鍵は、平地の感覚を捨て、高地での自分の限界を冷静に見極めたペース配分にあります。

そして、もう一つ考えられるのが、「高地への準備」です。本番でいきなり未知の環境に飛び込むのではなく、事前に体がどのような反応をするのかを知っておくことは、大きなアドバンテージになり得ます。

世界で戦うトップアスリートの中には、重要な大会に向けて、高地環境をシミュレートしたトレーニングを取り入れる選手もいます。これは、本番で最高のパフォーマンスを発揮するための、周到な準備の一つです。高地での身体の反応に計画的に備えるアプローチとして、近年注目されています。

こうした特別な環境は、一部のプロだけのものではありません。弊社では、自宅にいながら手軽に低酸素環境を体験できる機器のレンタルサービスを行っています。一般のサイクリストにとっても、本番に向けた新しい準備の選択肢となりつつあります。レース前に高地環境を体験しておくことで、当日の身体の感覚を掴むヒントになるかもしれません。

まとめ

乗鞍ヒルクライムは、美しい景色と達成感が魅力の素晴らしい大会です。しかし、その裏には「高度」という手強い敵が潜んでいます。この記事で紹介した出力低下の数値を参考に、自分だけの最適なペース戦略を組み立ててみてください。

そして、万全の準備でスタートラインに立ち、最高のヒルクライムを楽しんでください!