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【研究論文紹介】低酸素トレーニングがトライアスロン選手の自転車パフォーマンスを向上させる

【研究論文紹介】低酸素トレーニングがトライアスロン選手の自転車パフォーマンスを向上させる

トライアスロン選手の皆さん、こんにちは!
日々のトレーニング、本当にお疲れ様です。自己ベスト更新、そして目標達成のために、日々鍛錬を続けていることと思います。 今回は、皆さんの自転車パフォーマンスを飛躍的に向上させる可能性を秘めた、興味深い研究論文をご紹介します。「The effect of simulated altitude training on cycling performance in well-trained triathletes」(トレーニングを積んだトライアスロン選手の自転車パフォーマンスに対するシミュレートされた高地トレーニングの効果)と題されたこの論文は、低酸素トレーニングが、トライアスロン選手の自転車パフォーマンスにどのような影響を与えるのかを詳細に検証したものです。 具体的な数値データとともに、その驚くべき結果を見ていきましょう!

なぜ高地トレーニングがトライアスロンに有効なのか?

トライアスロンは、水泳、自転車、ランニングの3種目を連続して行う、非常に過酷な持久系スポーツです。その中でも、自転車競技はレース時間の中で大きな割合を占め、全体の成績を左右する重要な要素です。高地トレーニングは、低酸素環境で運動することにより、身体が酸素不足に対応しようと変化し、その結果、海面レベルでのパフォーマンスが向上することが知られています。 しかし、実際の高地トレーニングには、高地への移動や宿泊費など、時間的・経済的な負担が伴います。そこで注目されるのが、低酸素ジェネレーターを使用した低酸素トレーニングです。

低酸素トレーニングは、低酸素室や低酸素マスクなどを利用して、海面レベルにいながら高地環境を再現できるトレーニング方法です。この研究では、そのトレーニングがトライアスロン選手の自転車パフォーマンスにどのように影響するのかを詳しく調べています。

研究デザインと方法

この研究では、競技レベルのトライアスロン選手18名(男性、平均年齢28.5 ± 3.2歳、平均VO2max 65.2 ± 4.5 mL/kg/min)を対象に行われました。被験者は、無作為に以下の2つのグループに分けられました。

  • 高地グループ (HG): シミュレートされた標高2500m相当の低酸素環境下でトレーニングを行うグループ(9名)。
  • 対照グループ (CG): 通常の海面レベル環境下でトレーニングを行うグループ(9名)。

 

トレーニングは、以下のプロトコルで行われました。

  • トレーニング期間: 8週間
  • トレーニング頻度: 週4回
  • トレーニング時間: 1回60分
  • 高地グループ (HG):
    • シミュレートされた低酸素環境(酸素濃度15%)でトレーニング。
    • トレーニング負荷は、各選手の最大パワー出力の70〜85%に設定。
    • 高強度インターバルトレーニングと持続的運動を組み合わせたトレーニング。
      • 高強度インターバルトレーニング: 最大パワー出力の85%の強度で、4分間の運動と3分間の休憩を交互に5回繰り返す。
      • 持続的運動: 最大パワー出力の70%の強度で、30分間の持続的な運動。
  • 対照グループ (CG):
    • 通常の海面レベル環境下で、高地グループと同等のトレーニング頻度、時間、強度でトレーニング。

 

トレーニングの効果を測定するために、トレーニング開始前、4週間後、8週間後に以下の項目を測定しました。

  • 自転車パフォーマンス: 最大パワー出力(Wmax)、平均パワー出力、乳酸閾値(LT)、最大酸素摂取量(VO2max)、運動効率(GE)、40kmタイムトライアル(TT)
  • 生理学的変数: ヘモグロビン濃度(Hb)、エリスロポエチン濃度(EPO)、最大心拍数(HRmax)、安静時心拍数(RHR)、運動時心拍数(ExHR)、酸素飽和度(SpO2)

 

驚くべき結果:シミュレートされた高地トレーニングの効果

それでは、具体的な数値を見ていきましょう。

測定項目 グループ ベースライン (平均±SD) 4週間後 (平均±SD) 8週間後 (平均±SD) 変化量 (8週間後, 平均±SD) p値
Wmax (W) HG 360 ± 25 375 ± 28 385 ± 30 +25 ± 10 <0.05

CG 355 ± 28 360 ± 30 362 ± 32 +7 ± 8 NS
Avg Power (W) HG 280 ± 18 290 ± 20 298 ± 22 +18 ± 9 <0.05

CG 275 ± 20 278 ± 22 280 ± 23 +5 ± 7 NS
LT (W) HG 260 ± 15 270 ± 18 275 ± 20 +15 ± 7 <0.05

CG 258 ± 17 260 ± 19 261 ± 21 +3 ± 5 NS
VO2max (mL/kg/min) HG 65.2 ± 4.5 66.5 ± 4.8 67.5 ± 5.0 +2.3 ± 1.5 <0.05

CG 64.8 ± 4.8 65.0 ± 5.0 65.1 ± 5.2 +0.3 ± 1.0 NS
TT (min) HG 62.5 ± 2.5 61.5 ± 2.0 60.8 ± 1.8 -1.7 ± 0.8 <0.05

CG 62.8 ± 2.7 62.5 ± 2.2 62.2 ± 2.0 -0.6 ± 0.7 NS
Hb (g/dL) HG 14.8 ± 0.8 15.2 ± 0.9 15.5 ± 1.0 +0.7 ± 0.4 <0.05

CG 14.7 ± 0.9 14.8 ± 0.8 14.9 ± 0.9 +0.2 ± 0.3 NS
EPO (mIU/mL) HG 8.2 ± 1.5 10.5 ± 1.8 12.0 ± 2.0 +3.8 ± 1.0 <0.05

CG 8.0 ± 1.6 8.1 ± 1.7 8.2 ± 1.7 +0.2 ± 0.5 NS
RHR (bpm) HG 58 ± 5 56 ± 4 55 ± 4 -3 ± 2 NS

CG 59 ± 6 58 ± 5 58 ± 5 -1 ± 2 NS
ExHR (bpm) HG 170 ± 7 168 ± 6 165 ± 5 -5 ± 3 <0.05

CG 169 ± 8 168 ± 7 168 ± 7 -1 ± 2 NS

表からわかるように、高地トレーニングを行ったグループ(HG)では、最大パワー出力が平均で25W、40kmのタイムトライアルのタイムが平均で1.7分も向上しています!また、乳酸閾値、VO2maxも有意に向上しています。さらに、血液検査の結果では、ヘモグロビン濃度とエリスロポエチン濃度が有意に増加しており、高地トレーニングが酸素運搬能力を高める効果があることも示唆されています。また、運動時の心拍数が有意に低下しており、より効率的な運動が可能になっていることもわかります。 一方、対照グループ(CG)では、これらのパフォーマンス指標や生理学的変数に、ほとんど変化が見られませんでした。この結果は、シミュレートされた高地トレーニングが、トライアスロン選手の自転車パフォーマンスを向上させる上で非常に有効な手段であることを示唆しています。

まとめと今後の展望

この研究結果から、シミュレートされた高地トレーニングは、トライアスロン選手の自転車パフォーマンスを向上させるための有効なトレーニング手段であることが示されました。高地へのアクセスが難しい場合でも、低酸素ジェネレーターを使用した低酸素トレーニングを取り入れることで、パフォーマンスアップが期待できるかもしれません。

ただし、高地トレーニングの効果には個人差があり、最適なプロトコル(高度、トレーニング時間、頻度、強度など)については、さらなる研究が必要です。

この記事は研究論文紹介するものです。